東川町の田園地帯(取材日は雪景色)を車で走っていると2つの塔のような形をしている板張りの建物があります。東京の広尾で、人気のビストロ「PERICAN(ペリカン)」を営んでいた佐野健さん。北海道東川町に家族と一緒に移住し、東川町西8号北26に宿泊できるオーベルジュ「東川PERICAN(ペリカン)」を2024年4月に開店しました。
オーベルジュとは宿泊ができるレストランのこと。新たなワイナリーが続々誕生し、国際的にも評価を高めている「北海道産のワイン」に注目したオーナーが、北海道のワインと料理を、東川の田園地帯を眺めながら堪能し、そのまま宿泊できるオーベルジュを開店させた経緯をご紹介します。
ワイン好きの佐野健さんは、東京在住の頃から、毎年、夏休みをとって北海道へバイク旅行をしながら、ぶどう農家の収穫作業を手伝っていました。余市町の「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦さんや、岩見沢市の「10Rワイナリー」の運営者ブルース・ガットラヴさんなどのワイン造りに北海道ワインの可能性を感じたのが北海道移住のきっかけになりました。オーベルジュの右側に小さな建物があります。ワインセラー兼ワインショップです。佐野さんご夫婦が寄り添って立つ姿をイメージした並びです。
ぶどう農家の収穫を手伝っていた時、農家さんが家族や近所の方と一緒に収穫する様子を見て「家族がいる環境と職場が近いって、どれほど楽しいことなんだろう」と思った佐野さん。
「家族と職場は近い方がいい」と思った佐野さん。しかし、東京ではそれが難しい状況にありました。すぐに奥さまとお母さまと娘さんに思いを伝えたところ、3人は快諾。奥さまは「いずれは行くだろうなと思ってましたよ」と笑顔で振り返ります。
東川PERICAN完成までの道のり
佐野さんが移住先を北海道・東川町に決めた理由は、ほかにもいくつかあります。
東川移住のきっかけ
- 東川産キトウシワイン
- 旭川・江丹別の素敵なレストランchirai
- 食や店舗運営を一緒に考えてくれるアーケン・藤原社長
- 木こりの清水さんをはじめとする情熱的な人たちとの出会い
東川産キトウシワイン
東川町で作られたぶどうを使ったキトウシワインは、町外では買えません。そのため、佐野さんは買い付けのために、東京から何度も東川町を訪れていました。その都度、旭川空港に迎えに来てくれるキトウシの森スタッフの方の気配りも嬉しかったといいます。
旭川・江丹別の素敵なレストランchirai(チライ)
佐野さんが東川に何度も訪れるうちに、興味を持ったのが旭川・江丹別のレストランchirai(チライ)でした。
佐野さん この記事を見て、実際に行くと、飲食店運営者の目線で見ても、とても良いお店と感じました。そしてその建物を建てたアーケンさんの存在を知り、電話したのがはじまりでした。
食や店舗運営を一緒に考えてくれるアーケン・藤原社長
佐野さんは、机で向かい合って藤原さんと打ち合わせしたことがほとんどないと笑います。アーケン・藤原さんは、佐野さんが東川に来るたび迎えに行き、いろいろな場所に一緒に足を運んだそうです。
アーケン・藤原さん 佐野さんが移住したあと、野菜や肉の仕入れ先とか、地域とのつながりが必要ですよね。人や土地の雰囲気を知っておくのも大事。車でいろいろなお話をしながら、佐野さんに必要だなと思う場所や人を紹介しました。
情熱的な人たちとの出会い
佐野さんにとって木こりの清水さんとの出会いも衝撃的でした。
清水さんは、環境保全型林業を展開する木こり。アーケン・藤原さんとともに、地域のシラカバを大切に活かしていく「白樺プロジェクト」の仲間でもあります。佐野さんは白樺プロジェクト代表の鳥羽山聡さん、木こりの清水さん、アーケンの藤原さんとともに、旭川の突哨山(とっしょうざん)に赴き、シラカバを1本大切に伐採する経験もしました。
伐採したシラカバは、家具職人の鳥羽山さんの手によって、お店と宿泊部屋のカウンターに変身しました。佐野さんは元々、店舗の内装はウォールナットのような色味の濃い木材をイメージしていました。しかし、清水さん、藤原さん、鳥羽山さんなどがシラカバを愛していること、そして自分自身も白樺を大切に伐り出す体験に加わったことで、シラカバを軸とした店舗内装にしたいと考えるようになりました。
佐野さん どんな理由にせよ、それまでそこに立ってしっかりと生きていた木を倒すわけです。木が倒れる瞬間、感動とは表現しがたい、血がぶわっと沸き立つ感覚を体感しました。
エントランスにある4本のシラカバも木こりの清水さんにお願いしました。佐野さん、木こりの清水さん、アーケン・藤原さん、業種が異なる職人たちの想いが一致して生まれたウェルカムツリーです。
木こりの清水さん ぼくは、目的なく木を伐らず、森が育ちたいように育てるってやり方で森と関わっています。佐野さんの「シラカバをエントランスに使いたい」という願い、それを叶える藤原さんとアーケンの建物、そしてぼくの想いが一致した伐採です。
移住に太鼓判を押してくれた友人とのドライブ
佐野さん アーケンの藤原さんがぼくにしてくれたように、東京から来てくれた友人を連れて、東川とその周辺を案内していたらガス欠を起こしちゃって。
そのとき、ちょうどうちに除雪に来てくれている地元の方が、除雪車で通りかかりまして。事情を説明したら、ガソリンスタンドまで引っ張ってくれて。東川の方に助けてもらっている様子を見ていた私の友人が「佐野さんは、北海道でもやっていけるね」って言ってくれました。
こうして、たくさんの人たちとの出会いと想いが重なるなか、東川PERICANが完成しました。
東川PERICANの魅力
佐野さん
レストランでお酒を飲んだあと車で帰るのが難しいので、そのまま泊まれるオーベルジュにしました。オーベルジュの開業に当たっては、アーケンの藤原さんに、プランニングから補助金の申請に至るまで、いろいろ力を借りました。
使い勝手の良い厨房で美味しい料理を
厨房は、前のお店の5倍ほどの広さで使いやすさも抜群。佐野さんにとって最高の職場です。
1階には調理も可能なアイアンドッグ製の薪ストーブがあります。
佐野さん
最初はすこし無骨過ぎるかなとも思いましたが、高品質な鋳鉄製で、クッキングストーブとして非常に優秀だと藤原さんが強い想いを持って勧めてくれたので。東川町には、清水さんや鳥羽山さん、藤原さんなど、想いが熱い人たちがいます。
シラカバカウンターでワインを
一階で心おきなく料理を楽しんだ後は、2部屋ある2階の宿泊部屋でシラカバのカウンターにおいしいワインとおつまみを置いて、大雪山や田園地帯を眺めて過ごすことができます。眺望を遮るものがないように、窓周りのブラインドは電動で、壁内に隠れるようになっています。
野菜や肉の仕入れ先、補助金の手続きなど、お店づくりを全力でサポートするアーケン・藤原さん。そして、藤原さんのもとに集う木こりの清水さんや家具職人の鳥羽山さんという魅力的な職人さんたち。佐野さんは、たくさんの人たちとのつながりを作ってから移住できました。
取材のあとには、佐野さんの料理をみんなで堪能させていただきました。
東川PERICANは、4月19日金曜日にグランドオープンです。
詳しい情報は、公式Instagramからご確認ください。
@higashikawa_perican
東川PERICAN(ペリカン)
所在地:東川町西8号北26番地
TEL:0166―56-8846